警察で使われているシステムについて参考書籍やネット上で見つけたものを記載していますが、システム名は非公開だったり正確な名称が不明なもの、中には古くて廃止されたものもあります。また警視庁の持っているシステム・データベースが多く、他の道府県警察にないものもあると思われます。
目次
手口記録
かつては「手口原紙」と呼ばれていたものらしく、殺人・強盗・放火・誘拐・恐喝・窃盗・詐欺・性的犯罪等について、犯罪手口分類基準表に基づき、大種別・中種別・犯罪手口内容別に細かく分類された手口のデータベースです。(他の資料から察するに、捜査員たちが作成した「手口原紙」のデータを登録しているのが手口記録システムのように見受けられました)
容疑が窃盗であれば、その手口、対象、繁華街を狙うのか住宅街を狙うのか等の犯罪手口について記録されています。管理と運用は警視庁刑事部捜査支援分析センターです。
- 照会について
- 捜査支援分析センターの分析捜査班・モバイルチームの捜査員は臨場の際、携帯パソコン端末を携えて現場で「手口記録照会」を行っています
犯罪手口分類基準表に記載があると思われる分類は以下です。
- 殺人
- 持凶器殺人(鉄砲・刀剣・刃物)
- それ以外の方法による殺人
- 強盗
- 侵入強盗(金融機関強盗、上がり込み、押し入り、居直り)
- 非侵入強盗(途中強盗、おびき出し強盗、自動車強盗、路上強盗)
- 放火
- 建造物放火
- その他の放火
- 誘拐
- 身代金誘拐
- 未成年者略取
- 恐喝
- 通信恐喝(文書・電話等を用いるもの)
- たかり
- 窃盗
- 侵入強盗
- 詐欺盗
- 特殊物盗
- 乗り物盗
- かっぱらい
- その他
- さらに、ひったくり・掏摸・空き巣狙い・金庫破り・借用盗・宝物盗・自動車盗・車上狙い等60もの細かい手口に分類されている
- 詐欺
- 性的犯罪
コムスタット(COMPSTAT)
犯罪の種類とその発生時刻や発生場所等の事件情報を元に被疑者が次に犯罪を行う場所を予測するシステムです。
邀撃捜査とも呼ばれる捜査の手法をシステム化したもので、国内では神奈川県警察が最初に導入したようです。
- COMPSTATについて
- COMPSTAT は、computer と statistics(統計学)から作られた造語のようです
- 神奈川県警察が導入したのはOracle製のソリューションみたいです
被害記録
殺人・強盗・放火・誘拐・恐喝・窃盗・詐欺・性的犯罪を警察が認知した場合、それについて作成し記録している被害記録です。
管理・運用は警視庁刑事部捜査支援分析センターです。
土地鑑カード
前科者の住所や勤務先が記録されているもので、捜査本部が設置されるような事件で行われる土地鑑捜査にて必ずこの土地鑑カードの照合が行われます。
- 特徴
- 犯行場所までの距離等も分かるようです
警視庁刑事部捜査支援分析センターの分析捜査班・モバイルチームの捜査員は、臨場の際に「手口記録照会」と共に「土地鑑カード」の照合も行っています。
(正式名称不明)事件関係者データベース
警視庁刑事部刑事総務課にある端末で事件発生現場の地名を入力すると、あらゆる関係者の名前と関連データが表示されるそうです。また「その土地に土地勘のある素行不良者」という検索ができるようになっています。
警視庁刑事部捜査支援分析センターの捜査員が持ち歩くノートパソコンからでもアクセス可能なもののようです。
- 検索/表示できる内容
- 逮捕された人物が勤めていた、もしくは住んでいた場所
- その住所近くで職務質問を受けたことのある人物
職務質問を受けただけでデータベースに登録されている等、運用を一つ誤れば人権問題の指摘も出てきてしまうことからデータベースの存在はひた隠しにされているようです。
- 仮にこのデータベースが被疑者割り出しの端緒になったとしても、公判などでその存在を示してしまえばそのデータベースについての全貌を明らかにせざるを得なくなるため証拠資料としては使われないようです
- 逮捕手続きで作成する書類を刑事部刑事総務課がそのデータベースに入力しているらしいです
- 被疑者票(逮捕した被疑者の姓名、本籍、住所、家族関係、職業、血液型、顔の輪郭、指紋等)
- 手口記録
- 土地鑑カード
- 職質情報(姓名、住所、本籍、勤務先)
自動車ナンバー自動読取装置(Nシステム)
Nシステムの設置例
Wikipedia「自動車ナンバー自動読取装置」より引用、URL、2020年3月22日閲覧
自動車ナンバー自動読取装置は通称「Nシステム」と呼ばれ、「N」は「ナンバー」の頭文字から来ているようです。主要な幹線道路・高速道路等に設置されたこの装置により、その地点を通過した自動車のナンバーを自動的に読み取り、撮影した時間と向き(方向)とともに記録するシステムです。
- Nシステムについて
- 車両感知センサー、CCDカメラ、赤外線カメラで構成されています
- フロント部分を撮影して1秒以内に解析し、読み取ったナンバーを警察本庁の中央制御コンピュータに蓄積します
- 記録するのは以下の内容です
- 前部ナンバープレートの文字と数字
- 通過日時
- 通過の向き
- 運転者や同乗者の画像
- 記録するのは以下の内容です
- 警察本部のホストコンピュータに登録された手配車両データと照合しヒットすると、その位置・時間などの情報が担当の捜査員らに伝えられます(警察無線によっても通知されます)
- 警視庁では信号機内蔵型のNシステムも犯罪捜査に活用しています
2003年時点で全国に800カ所のNシステムが設定されていました。現在の設置場所については、有志のまとめた地図がGoogle Mapsに登録されています。
運用
Nシステムへの接続端末は各部の総務課に設置されています。刑事部なら刑事総務課、生活安全部なら生活安全総務課にあり、刑事部捜査一課の場合、捜査本部が監視対象のナンバーを絞ってそれを刑事総務課に依頼し、接続端末にナンバーを入力してヒットを待ちます。
そのナンバーを持つ車がNシステムの下を通過すると画面上に赤いランプが点灯して、位置、時間、上り方面か下り方面かが表示されます。これを「Nヒット」と呼んでいるそうです。
- 過去データの検索も上記同様に可能なようです
Nシステムの検索データや記録画像を証拠として法廷に提出することを警察庁は許していないそうです。仮に証拠として提出してしまうと、被告側から設置場所を明らかにするよう求められることが目に見えており、デジタルなので加工していないことの証明も求められてしまい原理の説明をするとなると警察側の手の内を全て明かしてしまうことになるためです。
捜査支援用画像分析システム(DAIS)
通称「DAIS」、Digital Assisted Investigation Systemの略で「ダイス」と呼ばれています。使い方としては「あの写真をダイスにかけろ」等。
警視庁刑事部捜査一課が開発したソフトウェアで、防犯カメラ等の粗い画像を鮮明化させることができるもので、警視庁管内の全警察署に配備されています。
原理としては、拡大して粗くなった画像のマス目とマス目の間を「近接化」する処理をしてぼかし輪郭をはっきりさせていき、次に色と色の境目を強調する「先鋭化」処理をして、平坦な画像に凹凸ができたような厚みが加わり人相が判別できるようになるというものです。
- Photoshopで拡大した写真の画像をぼかしフィルターでなめらかにさせた後に、エッジの強調フィルタで輪郭を際立たせるような意味合いに思えました
法廷での証拠資料として扱うためには大学の法医学研究室で正式に鑑定を依頼する必要があります。
画像解析は法医学の範疇で、カメラに映った画像から「特徴点」と呼ばれる顔の部分を抽出して立体的な3D画像を作成し、それについて法医学者が解剖学的な観点から多くの特徴点を見出して「異同識別」という画像と対象者が同一人物かどうかを科学的に立証します。
自動指紋識別システム(AFIS)
通称「AFIS」、Automated Fingerprint Identification Systemの略で「エイフィス」と呼ばれています。
現場に残された遺留指紋が誰のものかを調べるシステムで、特徴点が12カ所以上一致すると2つの指紋が同一だと判断されます。特徴点は以下の3種類です。
- 隆線の始まる開始点
- 終わる終始点
- 2本の流線が合流する接合点
1982年から登録され管理している1,020万件(2012年末時点)の指紋データと照合し、1件につき0.1秒未満で照合できます。
DNA型情報検索システム
2012年時点で以下2種類のDNA型データベースには約27万件が登録されています。
遺留資料DNA型情報検索システム
2004年から運用開始されているシステムで、犯罪現場に被疑者が遺留したと思われる血痕等のDNA型記録(遺留DNA型記録)を登録し、検索可能にしています。
DNA型記録検索システム
2005年から運用開始されているシステムで、犯罪捜査上の必要があり適法に被疑者の身体から採取された資料のDNA型を登録し検索可能にしています。
指紋・掌紋照合データベース
2002年から掌紋のデータベース化が行われており、2007年に指紋照合システムと統合されたデータベースとなりました。
- 掌紋データが指紋照合システムに統合されたということはAFISで掌紋データも検索できるということに思えました
2013年、日本・アメリカ政府はそれぞれの捜査当局が持つ被疑者の指紋データベースに常時アクセスし紹介できる「重大犯罪防止協定(PCSC協定)」を締結しました。
その協定によって以下のことが可能となりました。
- 逮捕した被疑者や現場の指紋データベースをオンラインで照会
- 拘束3年以上の法定刑となる犯罪のうち、テロとの関連が疑われるものの該当の有無や合致指紋の画像を回答
- 照会目的を伝えた上での前科前歴照会
- 2001年同時多発テロ事件を受けてアメリカ政府が短期滞在ビザ免除をしている国に対してテロ対策の一環として求めていたものです
似顔絵データベース
2007年に運用改装されたデータベースで似顔絵が画像ファイルで登録されており、事件ごとに被疑者の性別・年代・身長の他、手口や被害者を脅した時の文言なども記録されています。
- 手口から検索し、ヒットした似顔絵をチェックして近いものを探していく
BIRIシステム
Ballistic Image Retrieval and Identificationの略で、過去に押収された銃器・弾丸などのデータが登録されています。
警察庁科学警察研究所が所管していて全国の警察から照会可能となっています。
刀剣類痕跡データ(正式名称不明)
警視庁刑事部科学捜査研究所機械係にてストックされているデータ/システムのようです。以下のデータを瞬時にピックアップできます。
- どんな刃物でどのように傷つけられたのか
- それによってどのような刃物が使われたのか
筆跡標本
警察庁科学警察研究所が運用するデータベースで、日刊新聞などから選ばれた使用頻度の高い常用漢字500字体を収集対象とし、成人の筆者約200人から同じ字体の文字を日を変えて1人10回ずつ記載されたものが始まりとなっています。
- 現在(いつ時点かは不明)では約1000人から899字体を収集しているようです
3次元顔形状データベース自動照合システム
防犯カメラ等で撮影された人物の顔画像とそれとは別に取得した被疑者の顔画像を照合して、両者が同一人物かどうかを識別するシステムです。
金融機関やコンビニなどの防犯カメラでは、撮影された被疑者がサングラスやマスクをしているケースが少なくありません。このシステムでは別に撮影した被疑者の3次元画像を防犯カメラ映像の画像と同じ角度と大きさに調整し、両者を重ね合わせて個人識別を行っています。
- 2012年時点で、2011年から都内に設置された防犯カメラ20台が接続して試験運用中でした
- 照合精度は100%ではないようです(本運用前に「一致率が何%となればデータベースと合致と見なすか」の検証が必要だと指摘された)
運用ケース
捜査本部の幹部から「ある男を3次元顔認証で追及捜査せよ」と捜査員に下命されたとします。
捜査員は警察電話で123をプッシュし警視庁総務部情報管理課の照会センターに電話をかけ、男の前歴データを総合照会します。すると強盗事件での逮捕歴ありと回答があり、その際に、採取されたDNA・正面/左右斜め横から撮影された写真データを得られました。
捜査支援分析センターにて3次元化の画像処理を施し、捜査本部で3次元顔形状データベース自動照会システムにより接続された防犯カメラで自動照合を開始させます。
防犯カメラ設置の所轄警察署に「DBヒット!」の声と共に画像が速報されアラームが鳴り、そして捜査員らが男の追跡をし職務質問して身柄拘束します。
CIS-CATS・情報分析支援システム
Criminal Investigation Support-Crime Analysis Tool and Systemの略で、犯罪の様々なデータを1台の端末で確認できるシステムです。
従来の犯罪情報分析は様々なデータベースごとに端末が異なっており、迅速な分析が困難でした。既に存在していた「警察総合捜査情報システム」をさらに高度化させたのがCIS-CATSで、2009年から運用開始され、犯罪手口データベースと被疑者写真資料データベース、DNAデータベース等を1台の端末から照会することが可能となっています。
- GIS・地理情報システムによる分析も可能
- Geographic Information Systemの略
- 犯罪手口データベース・土地鑑データベース等の情報が地図上に表示されます
警視庁人事情報管理システム
表彰記録等の人事記録が収められています。
防犯カメラ
国土交通省によると、全国の駅構内に設置されている防犯カメラの設置台数は約7万台あるとされています。東京メトロでは全179駅に7,000台以上の防犯カメラを設置し、駅の司令所は本社でも確認可能となっています。また、都営地下鉄では全106駅に800台以上を設置しており画像は7日間保存しています。
街頭防犯カメラ
警視庁は街頭防犯カメラを配備しており、2002年に新宿歌舞伎町地区、2004年に渋谷地区・豊島区池袋地区、2006年に台東区上野二丁目地区、2007年に港区六本木地区、2010年に秋葉原地区にそれぞれ設置しています。
- 防犯カメラ情報は設置場所の所轄署と警視庁本部に送信されています
管理の統括は警視庁生活安全部生活安全総務課生活安全対策第四係で、警視庁の街頭防犯カメラシステム集中運用センターではリアルタイムで送られてくる各地区の防犯カメラ映像が目まぐるしくスイッチングされ映し出されています。
- 専従担当者が24時間体制で防犯カメラ画像をモニターし、110番通報に基づく事件・事故への対応や客引き・違法露店の排除に活用しています
- 録画データはハードディスクや磁気テープに保存されて1週間保存されています
警察庁の防犯カメラ
子供見守りカメラシステム
警察庁が設置し地元住民団体が運用する防犯カメラシステムで、宮城県東松島市、栃木県小山市、埼玉県戸田市、東京都東大和市、東京都武蔵村山市、静岡県焼津市、滋賀県大津市、大阪府寝屋川市、兵庫県姫路市、和歌山県岩出市、岡山県岡山市、広島県広島市、徳島県徳島市、福岡県福岡市、鹿児島県奄美市の通学路を中心とした場所に25台設置されています。
警察庁直轄の防犯カメラ
北海道札幌市すすきの地区、福岡県福岡市中州地区にそれぞれ42台設置されています。
高性能街頭防犯カメラシステム
神奈川県川崎市のJR川崎駅東側地区に50台設置されており、人が集まったり動いたりする「モーション」による自動起動で撮影を開始し、その画像データから被写体となった人物の身長・服装をデータベース化しています。
- 身長や服装に基づいて特定の人物を検索可能
- カメラ付属高性能マイクによる会話の録音も可能
移動通信システム
以下の4種類がある。
- 車載通信系
- 無線機を搭載したパトカー・白バイ・ヘリコプター・船舶等と、都道府県警察本部の通信指令室を結ぶ通信系
- 所轄警察署との通信や車両同士の通信も可能
- 原則として警視庁/道府県警察単位で運用されています
- 携帯通信系
- 携帯無線機を使用し、中継所を使用せずに無線機同士で直接的に通信します
- 署外活動系
- 所轄警察署の管轄区域内における、警察署と警察官または警察官同士の通信に利用します
- 交番勤務警察官「えー、西口から西口PB」(西口は交番名、PBは交番を意味する)「西口です、どうぞ」「暴れている男がいるので応援願います場所は〇〇前」
- 所轄警察署の管轄区域内における、警察署と警察官または警察官同士の通信に利用します
- WIDE通信システム
- 複数の都道府県にまたがった範囲での通信を可能にするデジタル無線通信システム
- 広域事件では都道府県を越えた一斉通信も可能
警察電話
通称「警電」。警察内部の巨大な内線電話で、警察庁、都道府県警察本部、警察署、交番、駐在所等が繋がっています。
それぞれの組織で設置された固定電話からだけではなく、自動車電話や移動警察電話等からもかけることができます。
- 番号体系は一般のものと異なる
- 警察署から交番へかける時は4桁の番号でいいそうです