[警察小説メモ] 鑑識

事件の種類にもよりますが、殺人事件のような強行犯の場合は現場に警視庁/道府県警察本部の係が臨場します。

  • 鑑識課・現場鑑識係
    • 現場にある様々な遺留品の採集と現場の状況を図面に起こします
  • 鑑識課・現場指紋係
    • 現場で指紋を採集します
  • 鑑識課・現場足跡係
    • 現場で足跡を採集します
  • 捜査支援分析センター・機動分析第一~二係
    • 現場や現場付近の防犯カメラ映像の回収をします
  • 捜査支援分析センター・分析捜査第一~二係
    • 犯行現場から類推される手口情報等を元に捜査システムにアクセスする等の情報支援を行います

死体見分・検視・検案/行政解剖

(殺人事件を含む)変死体発見等の現場には警察官が臨場します。取扱うのは所轄の警察署なら刑事課の警察官で、出動服に着替えて遺体搬送用のトラックやバンで臨場します。

  • 事件現場で遺体の下に敷いたり遺体を包む場合に使用するのはグレーのシートです
    • 目隠し用のブルーシートは使いません
  • 遺体に合掌をします
    • 警察学校で「死者に礼を失するな」と教えられるためです(通りすがったとしても「仏様だ」と気づいて合掌します)
    • ドラマ等で全員で合掌するシーンがあるものの、実際は自分のタイミングで行っているようです
    • 駆け出しだと「殺人事件だ!」と興奮してしまう気持ちを静める効果もあるそうです

死体見分

明らかな自殺や、電車に飛び込む等の衆人監視による明確な自殺の場合でも警察による遺体のチェックが行われます。これを死体見分と呼び、以下について調査した結果を「死体見分調書」として作成します。

  • 死因
  • 人相
  • 全身の形状
  • 歯牙の形状
  • 傷跡・入墨等の特徴のある身体の部位
  • 着衣
  • 所持品
  • 指紋・掌紋等

死体の身元が不明な場合は死体身元照会書を作成して死亡場所の自治体に引渡します。身元が判明している場合は遺体を遺族に引渡します。

検視

自殺か他殺か判明していない、または明らかに他殺であると思われる遺体については検視官による検視が行われ、事件性の有無・死因・死亡推定時刻や使われた凶器等を調べます。

  • 「検視」と「検死」の違い
    • 検死は海外での用語であって日本では使われていません

変死体が発見された場合、まずは現場を管轄する警察署の係長クラスの警察官(警部補)が第一段階の検視となる行政検視を実施し自他殺を判断します。判断が難しい場合、誤認を防ぎ犯罪を見逃さないよう警察本部の鑑識課にある検視係の検視官が出動します。

事件性はないものの、医師が検案(死体のチェック)を行い死体検案書を作成してもらいます。その上で死因が不明でかつ医師が必要と認めた場合は死体解剖保存法に基づいて監察医による行政解剖が行われます。

  • 監察医について
    • 行政解剖を行う医師として、東京23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市のみ設定されています(東京の場合は監察医務院)
    • 上記以外の地区については自治体と提携している大学にある法医学教室で行っていたりします(千葉県の場合は千葉大学大学院医学研究院附属法医学教育研究センター)
  • 行政解剖について
    • 行政解剖の目的は、異状死体の死因を究明することによって感染症の発生等を検知し疾病予防や事故防止等の対策をすることです
    • 遺体は解剖に回すまでの間、所轄警察署の霊安室に安置されます
    • 行政解剖されて事件性が判明することもあります

事件性がある場合は死体を警察署に移送して、警視庁/道府県警察本部鑑識課に所属する検視官による司法検視が行われます。

  • 司法検視について
    • 刑事訴訟法229条では検察官の仕事とされていますが、司法警察員に代行もできることになっているため警察官の検視官が検視をしています
    • 検視の際に警察協力医等、専門家が立ち会うこともあります(これを検屍と呼ぶ?)
    • 司法検視は遺体を解剖せず、人体の至る箇所(瞼の裏、鼻の奥、喉の奥、性器、肛門まで)について、自殺・他殺だと分かりきった遺体であってもチェックリストに従って調査します(遺体に残された傷等を調べて死亡の原因を調べるのが主な任務です)
    • 検視官は写真を撮り、身元が明らかになる証拠を集めて死因を特定します
      • そのための予算は死体1体につき7万円ほど
      • その予算内で組織検査や薬物反応検査などを行います
      • 司法解剖は病理医がつきっきりで行います

検視内容

検視は法令「検視規則」によって定められています。第6条に「検視に当っては、次の各号に掲げる事項を綿密に調査しなければならない」とされています。

  • 第1項
    1. 変死体の氏名・年齢・住居及び性別
    2. 変死体の位置・姿勢並びに創傷その他の変異及び特徴
    3. 着衣・携帯品及び遺留品
    4. 周囲の地形及び事物の状況
    5. 死亡の推定年月日時及び場所
    6. 死因(特に犯罪行為に基因するか否か)
    7. 凶器その他犯罪行為に供した疑のある物件
    8. 自殺の疑がある死体については、自殺の原因及び方法・教唆者・幇助者等の有無並びに遺書がある時はその真偽
    9. 中毒死の疑がある時は、症状・毒物の種類及び中毒するに至った経緯
  • 第2項
    • 前項の調査に当って必要がある場合には、立会医師の意見を徴し、家人・親族・隣人・発見者その他関係者について必要な事項を聴取し、かつ人相・全身の形状・特徴のある身体の部位・着衣その他特徴のある所持品の撮影及び記録並びに指紋の採取等を行わなければならない
  • 性別の判断
    • 回されてくるのはあからさまに事件性が高いため、膨れ上がった水死体や死後何日も放置され腐敗が激しいものなど、性別の判断については割と難易度が高いものになります
  • 年齢の判断
    • 骨や歯で行う
    • 頭蓋骨の縫合部分(頭頂部にある冠状縫合・矢状縫合・ラムダ縫合)
      • 矢状縫合が30代後半から始まり、次いで冠状縫合・ラムダ縫合が閉塞していく
    • 切歯縫合(上顎の前歯から奥に向かう部分)の隙間の埋まり具合から判断でき、50代でほぼ消失する
      • 20歳から閉塞(骨が繋がる)が始まり30歳で終了する
    • 閉塞の度合い
      • (1) 縫合線に隙間が確認できる(若年)
      • (2) 拡大すると閉塞(骨が繋がる)が確認できる
      • (3) 閉塞状態が肉眼で分かる
      • (4) 破線状の線になる
      • (5) ほぼ消失して線は見えない(高齢)
  • 歯型による個人の特定
    • 歯医者で行われたレントゲン撮影と遺体のレントゲン撮影をスーパーインポーズ(重ね合わせ)して照合
    • 歯と一緒に頭蓋骨でもスーパーインポーズして照合を確認します
  • 個人特定が難しくなるパターン
    • 頭・手足がないケース
      • 現在の個人識別の手法は頭骨・手足の指紋による比重が極めて大きいため難しくなります
        • 頭骨は上記の通り年齢や歯形による個人特定が可能
        • 指紋は言わずもがな
      • DNA司法鑑定の費用は1体あたり20万円以上かかります
        • そもそも行方不明者のDNAが残されているケースが稀
      • そのため頭と手足が切断された全裸遺体の場合は個人特定が困難で、捜査のしようがないのが現状です
    • 遺体がない
      • 明らかに殺された情況証拠があったとしても、遺体がないことで不起訴になった例があります
      • しかしそう簡単に遺体は消せません
        • 火葬場の高温高圧の焼却装置でも骨は残ります
        • 水酸化ナトリウムで溶かす手法も、大量の薬品と加熱して煮込む手間が必要になります
      • 陶芸用の焼き釜など高火力かつ長時間で焼けば灰にできます

検案・解剖

東京都において検案と法医解剖を行うのは、23区なら東京都監察医務院、立川市・国立市なら東京都監察医務院の多摩班が、日野市・稲城市・府中市は東京慈恵会医科大学、三鷹市は杏林大学医学部、調布市・狛江市は近隣の医師会に委嘱しています。

東京都医務院

杏林大学医学部

司法解剖

日本の死亡者数は年間約100万人で、そのうち司法解剖が行われるのは約3万人だそうです。前述の通り、司法解剖が行われるのは検視官が「事件性あり」と判断した遺体となります。

  • 変死体であっても解剖に至るのは10%
    • 外傷がなかったり自然な形にしてしまえば完全犯罪も可能になります
    • 未知の感染症や寄生虫症などで死亡した場合も見過ごされてしまう可能性があります

後に警察庁長官になった吉村博人氏は解剖を手伝わされた時にこう回顧していました。

 私が最初に死体を見たのは入庁してから3か月くらいしてからでした。浅草署で巡査見習いをやっていた時に山谷で殺しがあって、慶応大学医学部で解剖する……。死体の解剖を見ていたら「おまえ、手伝え」。今なら電動のこぎりでしょうけど、あの頃は普通の、のこぎりで、「ほら、お前、力を入れて引け」……。

 新人をからかっているところもあったんでしょうけれど。こんなことくらいで卒倒するわけにはいかんと頑張ったけれど、あれからしばらくの間は、すき焼きが食べられなかった。

 ええ、においが似てるんですよ、あれ。

野地秩嘉「警察庁長官」より引用、URL、2023年10月16日閲覧

事件現場での作業

所轄警察署の警察官や機動捜査隊によって現場が保全されると、鑑識課員/係員たちがやってきて遺留物の採取活動を始めます。

歩行帯

鑑識が遺体付近やその周辺をチェックして証拠となる遺留物がなさそうな場所を選んで歩行帯を敷き、後から入ってくる捜査員たちが歩けるようにするものです。

30~40cm幅のビニール製シートで何度でも洗えるようになっています。前の現場の遺留物が入り込まないように、毎回しっかり洗って乾かし使い回しています。

  • 色は青とか白のようです

番号札

黒地に白文字でアラビア数字が書かれた札を、現場に残されている足跡・血痕・タバコの吸殻等の証拠品や遺留品が残されていた場所に置いて写真を撮るものです。

  • 番号の順番に意味はないそうです

人型

殺人事件現場で、遺体があった位置とその倒れていた形を表わすために置かれたロープや張られたテープのことです。チェーンで囲っているケースもあるそうです。

微物採取

交通鑑識

警察庁ホームページ/平成26年版犯罪被害者白書「第3節 刑事手続への関与拡充への取組」より引用、URL、2023年9月23日閲覧

事件現場にある髪の毛や小さな砂利等を根こそぎ採取することを微物採取と呼んでいます。。1つ1つをビニール袋に入れて写真も撮ります。その数は数百にも及ぶそうです。

鑑識係員たちが横一列に並び、取りこぼしのないように10cmぐらいずつ進みながら地面をチェックしていき、採取していきます。

  • 誰かが一度通ったところは二度とチェックしないため、目を凝らして何も逃さないように採取しています

鑑定

指紋鑑定

現場や凶器に残された指紋を採取しその文様を明らかにした上で、データベースと照合して個人を特定し捜査に役立てます。

採取対象となる指紋は、明らかに肉眼で見て分かる形で残されている「顕在指紋」と、一見しただけでは分からない「潜在指紋」の2種類があり、その状態によって採取・検出に使われる方法が異なります。

採取方法

  • 粉末法
    • 銀白色のアルミニウム粉や黒色のカーボン粉を付着させ、羽毛などのついた刷毛を使って粉を落とし、指紋を浮かび上がらせる方法
    • 浮かび上がる指紋の線は「隆線」と呼ばれています
    • その指紋を特殊な方法(?)で写真撮影し、ゼラチンシートにその指紋を転写します

検出方法

検出方法は40種類以上あり、検出対象の素材や形状に寄って使い分けています。以下はそのうちの一部です。

  • 噴霧法
    • 気化試薬を吹きかけて皮脂に含まれる分泌物と化学反応させる方法
  • 気体法
    • 指紋には顔の皮脂や汗が付着している、その水分が吸収されにくい金属やプラスチックからの検出に用いられます
    • 水分と結びついて固形化する「シアノアクリレート」という試薬を利用します
    • 検出対象物を入れたボックスの中で、ホットプレート上のシアノアクリレート水溶液を加熱し気化させて指紋を白く凝固させます
  • 液体法
    • 指に付着した汗や油分が吸収されやすい紙などからの検出に用いられます
    • ニンヒドリン水溶液を検出対象物にスプレーやハケで塗布しアイロンなどで加熱すると、汗に含まれているアミノ酸がニンヒドリンに反応して赤紫色の指紋が浮かび上がります

指紋の種類

日本人の指紋の分類として「弓状紋」「蹄状紋」「渦状紋」の3種類があります

弓状紋

法科学鑑定研究所「日本人の指紋の種類」より引用、URL、2020/05/21閲覧
  • 弓状紋
    • 中央で弓なりになっている
    • 日本人の約10%、アメリカでは約5%

蹄状紋

法科学鑑定研究所「日本人の指紋の種類」より引用、URL、2020/05/21閲覧
  • 蹄状紋
    • 蹄の形
    • 日本人の約40%、アメリカでは約60%

渦状紋

法科学鑑定研究所「日本人の指紋の種類」より引用、URL、2020/05/21閲覧
  • 渦状紋
    • 同心円状
    • 日本人の約50%、アメリカでは約35%

指紋照合

検出した指紋はライブスキャナという機器やカメラで撮影しPCに画像として取り込んで照合されます。

現場に残された指紋は全て「現場指紋」と呼ばれ、そのうち事件と無関係の人物が残したものを「関係者指紋」と呼び、それらを除いたものが被疑者のものと見られる「遺留指紋」と呼ばれます。

検出した指紋のうち遺留指紋を特定し「AFIS」(エイフィス、日本語名は「自動指紋識別システム」)によって指紋照合が行われます。

  • AFISについて
    • AFISは「Automated Fingerprint Identification System」の略
      • 指紋画像を画像処理で鮮明にさせ12の特徴点で照合をかけます
      • 1982年から管理されている1,020万件(2012年末時点)の指紋データと照合します
      • 1件につき0.1秒未満で照合できます
    • 特徴点が12カ所以上一致すると2つの指紋が同一だと判断されます
      • 特徴点は以下の3種類
        • 隆線の始まる開始点、終わる終始点、2本の流線が合流する接合点
    • AFISはあくまでも特徴点の一致を検索するだけです
      • 最終的な判断は指紋鑑定官の資格を持つ3人の鑑識課員が合議し、ルーペを使ってそれぞれ12カ所の特徴点の一致を探して「一致」と判定する必要があります
      • 裁判で証拠として使うためには13点の一致が必要だという参考文献もありました

その他

不審者の身元をチェックしたい場合、その人物を交番に招いてお茶をサービスする等して湯呑に指紋を付着させ、それを交番に備え付けてある指紋採取道具で採取、AFISで照合させて身元を特定する方法があります。

  • その人物に前科前歴があれば、管内で起きている同じ手口の事件の被疑者として捜査できます

足跡鑑定

靴跡の鑑定で靴跡は「ゲソ痕」とも呼ばれています。科学捜査用ライトで特定の波長の光を照射し、ゴーグルで邪魔な波長の光を遮断するとはっきり見えることがあります。

  • 足跡の鑑定方法について
    • 写真撮影法
      • 紫外線や赤外線を当てて撮影します
    • 石膏法
      • 足跡に石膏を流し込んで転写します
    • ゼラチン法
      • 足跡にゼラチンを押しつけて転写します

血痕・体液痕鑑定

現場に残された血液や体液(精液や唾液等)を採取し検査して、その血液型やDNAを調べます。

  • 血液について
    • ルミノール反応を用いて浮かび上がった血液を採取し、ABO式血液型検査を実施して被害者・被疑者のものか否かをチェックします
    • ルミノールは血液中のヘモグロビンと反応する化学薬品で、霧状に吹き付けると血痕が反応して青白く浮かび上がるものです
      • 血痕の形状から犯行時の状況や凶器の特定も可能だそうです
  • 体液について
    • 犯行現場に残された精液・唾液・汗の多くは乾燥したシミ状の「体液斑痕」と呼ばれ、古いものは酵素の一種である酸性ホスファターゼをかけて化学反応させて判定し、そこからDNAを取り出して鑑定し特定します
      • 唾液はタバコの吸い殻・切手・封筒などから採取可能
    • ALS(Alternative Light Sources)という機材は、赤・緑・青など様々な色の特殊な光を発するライトで、可視光線の中の特定の波長や紫外線・赤外線を当てることで隠れた痕跡を浮かび上がらせることができます
      • これによってその場に残る血液や唾液などの体液斑痕や繊維なども浮かび上がらせることが可能

毛髪鑑定

現場に遺留された毛髪が人間のものか動物のものかを鑑定し、人間のものならパーマをかけたかどうか等の有無を調べます。

  • 毛髪鑑定について
    • 毛髪は4cmあれば血液型の検査も可能です
      • カルシウムの度合いを調べる元素分析という鑑定を行うと覚醒剤の使用有無も分かるそうです
    • 毛髪の根元にある根鞘細胞が残っていればDNA鑑定も可能
    • シャンプー・ヘアケア商品のメーカーでは様々な人の髪の毛をストックしていて、警察も捜査に際してサンプル提供や協力を仰いでいるようです

DNA鑑定

DNAとは

細胞の中にある染色体を構成しているのが遺伝子、その遺伝子を形作っているのがDNA(デオキシリボ核酸)です。

染色体の中に折りたたまれた状態のDNAは二重の螺旋状になっており、この螺旋をアデニン・チミン・グアニン・シトシンという塩基が繋いでいます。アデニンとチミン、グアニンとシトシンがそれぞれ対になった塩基対がDNA中におよそ30億個存在しています。

この塩基対の配列によって遺伝子情報が決定されるため、それを個人識別に利用しています。

  • DNAについて
    • DNAは遺伝情報を含むエキソンという部分と、遺伝情報を含まないイントロンという部分が交互に並ぶ形で構成されています
      • DNA鑑定とはイントロンの中で繰り返し塩基配列をしている部分の回数をカウントすること
      • 2~5回の繰り返しを示す部分をSTR(Short Tandem Repeat)と呼んでいます
    • DNAは終生不変であり、体のどこの細胞からでも同じDNAを採取できます

鑑定

鑑定には体のごく微量な細胞があれば可能となります。精液・血液・唾液・汗・皮膚片・口腔粘膜・骨・歯・毛髪の毛根・爪等。

採取された試料はまず遠心分離機にかけられDNAを抽出し、PCR法(プリメラーゼ連鎖反応法)によって10~100万倍に増幅させ、フラグメントアナライザーという自動分析装置にかけて塩基の繰り返し回数を導き出します。

  • 試料からDNAを抽出するところで試薬の量や配合の加減等、研究員の技量が問われるものとなります
  • 主流な鑑定方法は「マルチプレックスSTR法」で、常染色体15カ所と性染色体1カ所の合計16カ所を調べます
  • 個人識別力は4兆7000億分の1となり、ほとんど間違いのない個人識別方法となります
    • ただし一卵性双生児は同一DNAです

火災鑑定

燃焼残渣(ねんしょうざんさ)

火災では火元とその原因を明らかにする必要があります。放火事件かどうかを判断するためには燃焼促進剤の有無がポイントとなり、燃焼残渣と呼ばれる燃え残りの部分に燃焼促進剤が含まれているかどうかを鑑定します。

  • 燃焼残渣はガスクロマトグラフィーという機器で分析し、ガソリンやシンナーの銘柄まで細かく特定できます
    • 燃焼深度の浅いところは白く光り、深いところは黒く見えます
    • これによって出火場所を絞り込みます

声紋鑑定

人間の声はどのタイミングでどの周波数の音をどの程度含んでいるかについてソナグラフで視覚的に3次元表示すると、指紋のように個々人で異なる紋様を示します。

同一人物が同じ言葉を発した場合にソナグラフには同じパターンが表れることを用いて個人識別に利用します。

  • 2つの声紋を比較し10秒間で12個の特徴点が一致すると同一人物だと判定されます
  • 声紋に表れる個人の特徴点は百数十項目に及びます

筆跡鑑定

人間が文字を書く時にもいくつかの特徴が表れることを個人識別に利用しています。見る特徴は以下の通りです。

  • 特徴
    • 運筆状況
      • 筆順や筆圧、流れ
    • 字画形態
      • 書き始めの筆の運び、文字の方向が変わる転筆部、止め、はねがある終筆部
    • 字画構成
      • 文字の偏(へん)と旁(つくり)のバランス、複数の縦線と横線の間隔
    • 文字形状
      • 角張っているか、丸みを帯びているか、大小や縦横の線の長さ
    • 配列上の特徴
      • 文字と文字のスペースの空き具合

ESDA

ESDAとは「Electrostatic Detection Apparatus」の略で、静電気検出装置という名前の通り静電気を利用して筆圧痕を浮かび上がらせることのできる装置です。

目的は大きく2つ、1つは見えない文字を浮かび上がらせること、もう1つはコピー機の種類・製造元を絞り込むことです。

  • 見えない文字を浮かび上がらせる
    • 鑑定資料となる紙をESDAの上に載せて放電装置を使うと、紙のくぼんだ箇所に静電気が溜まり、そこに特殊な粉末を振りかけるとくぼんだ箇所が分かるように浮かび上がる
    • メモ帳に何かを書いてそのページを破り取ってもその下の紙には痕が残っている、これを検出します(エンピツでさらさらなぞると文字が浮き出てくるイメージ)
  • コピー機の種類・製造元の絞り込み
    • コピー機に固有の圧力痕を見つけ出せるため

ポリグラフ

いわゆる嘘発見器で、正式名称はポリグラフ装置と言います。ポリグラフ検査は「嘘をついているかどうか」ではなく「事件に関与しているかどうか」を検査するものです。

質問を受けた被疑者の感情の動きに応じて変化する体の様子を記録して、嘘か本当かを科学的に見分けることを目的とします。記録されるのは呼吸波・皮膚電気活動(発汗)・脈波であり、質問はすべて「いいえ」で答えさせます。

目的によって以下2つの質問法を使い分けます。

  • 緊張最高点質問法
  • 対照質問法

緊張最高点質問法

被疑者がその犯罪事実について詳細を知っているかどうかを判定する目的で使われる質問法であり、質問の内容は「裁決質問」と「非裁決質問」の2種類に分かれます。

  • 裁決質問
    • 被疑者・被害者・捜査関係者のみが知りうる犯罪事実に関するもの
  • 非裁決質問
    • 犯罪の事実には直接関係していないものの、第三者から見た時に裁決質問と内容が似ているもの

真犯人ではない人が上記の2質問を受けた場合、両者の区別がつかないためポリグラフの反応は同じものとなる。しかし真犯人の場合は裁決質問で「あのことを聞かれた」と特別な反応を示してしまいます。

新聞紙の間に挟んであった現金が盗まれた事件での例
  1. 現金は週刊誌に挟んであったことを知っていますか
  2. 現金は書類の間に挟んであったことを知っていますか
  3. 現金は家計簿の間に挟んであったことを知っていますか
  4. 現金は新聞の間に挟んであったことを知っていますか
  5. 現金は大学ノートの間に挟んであったことを知っていますか
  6. 現金はデパートの包装紙の間に挟んであったことを知っていますか

非採決質問は「新聞」の質問であり、真犯人以外の人はどれも一様に聞こえるため「いいえ」の反応に差はないものの、真犯人は新聞の質問に答える「いいえ」で特別な反応を示してしまうというものです。

キャッシュカードを盗みATMで現金を引き出した事件での例

暗証番号だった生年月日をどうやって確認したのかについての質問で、被疑者は運転免許証で生年月日を確認していたことの目星がついている前提です。

  1. 健康保険証で確認しましたか
  2. 手帳で確認しましたか
  3. 診察券で確認しましたか
  4. 運転免許証で確認しましたか
  5. 身分証明書で確認しましたか

被疑者は4の質問に対して皮膚の抵抗反応が示され、呼吸波形は平坦になり、呼吸が停止したことを示した。つまり被疑者は運転免許証で暗証番号を確認した事実を思い出し、その発覚を恐れて息を潜めて隠そうとしたことが表れているというものです。

対照質問法

相手は犯罪に関与しているかどうかについて、より直接的な内容で質問する方法です。質問の内容は以下の3種類に分かれます。

  • 無関係質問
  • 関係質問
  • 対照質問
3月8日に会社の現金200万円が盗まれた事件での例
  1. あなたはY・Nさんですか
  2. あなたは50歳ですか
  3. 3月8日に会社の金庫から現金200万円を盗んだ犯人を知っていますか
  4. あなたは世田谷に住んでいますか
  5. 3月8日の昼休みに経理課の金庫を開けたのはあなたですか
  6. この会社に勤める前の会社で、品物を持ち出して売ったことがありますか
  7. 会社の金庫の中から盗まれた現金は今どこにあるか知っていますか
  8. あなたの本籍は群馬県ですか
  • 無関係質問
    • 1・2・4・8
  • 関係質問
    • 3・5・7
  • 対照質問
    • 6
    • 事件とは直接関係ないが犯罪に関係している質問
    • 真犯人以外なら関係質問と対照質問の反応に差はないが、真犯人は関係質問に対する反応が対照質問に対する反応より振れ幅が大きくなる

検査・検査者

検査者は科学警察研究所法科学研修所で鑑定技術職員養成科ポリグラフ課程の修了が必須となります。また、検査時には検査の証拠能力を高めるため以下の条件が必須となります。

  • 器具の性能や調整が完全である
  • 検査者が技術と経験を有する
  • 被験者の同意を得ている
  • 検査者が自ら実施した検査の経過及び結果を忠実に記載して作成した検査回答書である

爆発物鑑定

現場に残された爆発残渣を使い、電子顕微鏡で残留する火薬類を特定します。高度な鑑定ではマイクロアナライザーやガスクロマトグラフィーを使います。

  • マイクロアナライザーは無機成分を検査し元素分析を行う機器

繊維鑑定

動植物由来の天然繊維は顕微鏡の鑑定で簡単にその種類が特定できます。強盗事件で使われた手袋の繊維片等。

合成繊維は同じ材質でも風合いや光沢を持たせるために加工されており、試料に光を当ててどの波長の光をどの程度吸収するかを鑑定し繊維の種類を特定します。

塗料鑑定

ひき逃げ事件の被害者に付着した自動車の塗膜片や、金庫破りに使われた工具の塗膜片を鑑定します。

通常の塗膜は複数の層から構成されており、現場に遺留された塗膜片と対照する塗膜の元素分析や光を照射することによって同一性を立証します。

金属鑑定

銅線・鉄片・アルミニウム片を蛍光X線分析法により微量な不純物を分析し、遺留品との異同識別を行います。

土壌・植物片鑑定

事件現場と被疑者との関連を証明するものです。

    • 2000年発生の世田谷一家殺害事件では、犯人の遺留品であるヒップバッグの中から採取した微量の砂について科学捜査研究所が鑑定した結果、アメリカのモハーヴェ砂漠の土壌と一致することが判明しました

薬物鑑定

覚醒剤や大麻等の麻薬かどうかを鑑定して特定します。また、被疑者が薬物を使用しているかどうかも鑑定します。

日本で流通している覚醒剤はほとんどがメタンフェタミンで、純度が95%ではあるものの密造のため不純物が混じっています。この不純物をガスクロマトグラフィーで鑑定し波形で同一か否かを判定します。

  • 各薬物で不純物の混じり方に固有のパターンがあり「化学指紋」とも呼ばれ、コカイン・ヘロイン等の麻薬の種類ごとにデータベース化されているそうです

毒物・劇物鑑定

毒物及び劇物取締法では、大人で換算した時の致死量が2g程度以下の物を毒物、2~20g程度の物を劇物と指定しています。

  • 別表第一が毒物、別表第二が劇物、別表第三が特定毒物
    • 特定毒物は毒物でも特に毒性が強く、取り扱いに注意が必要なものらしいです

経口摂取した毒物・劇物であれば飲み残しの飲料等から、そうでない揮発性物質が疑われるものであれば被害者の血液・臓器・毛髪・爪等を調べます。

  • 予備検査で呈色(ていしょく)反応を見ます
    • 化学反応で発色反応を見る
  • 揮発性の毒物・劇物
    • ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィーにより成分を吸収・分離させて調べる機器で鑑定します
      • 揮発性の高い青酸カリ(シアン化カリウム)やアルコール・シンナーなどの分析に用いられます
  • 不揮発性の毒物・劇物
    • 酸性やアルカリ性に液性を変えて抽出しやすくし、得た抽出物をガスクロマトグラフィーで成分と質量を特定します