いわゆる「ヒト」「組織」を動かす管理部門です。採用や異動、給与等の人事と教育、福利厚生等の業務を担当しています。総務部と同じように新任が配属されることはありません。
警察組織内部の不祥事について調査をする「警察の警察」と呼ばれる「監察係」が人事第一課に置かれていることで有名です。
警視庁における警務部の組織構成は以下となります。
- 人事第一課
- 人事第二課
- 訟務課
- 給与課
- 厚生課
- 教養課
- 健康管理本部
人事第一課
人事第一課(通称「ヒトイチ」)の組織構成は以下となります。
- 人事一課長
- 庶務係
- 人事係
- 人事企画第一係
- 人事企画第二係
- 人事情報管理課
- 監察係
- 表彰係
- 制度調査係
人事一課長
監察係を管理・監督する所属長であり階級は警視長です。人事に関するスポークスマンです。
東京大学法学部の卒業生が圧倒的に多い警察庁入庁20年目のキャリアが警視庁に出向して着任するポストとなっています。警務部参事官も兼ねている、いわゆる出世コースのポストです。警察官が起こした不祥事をできるだけ大事にしない役割を担っています。
- 監察について
- 監察の実務・調査は、現場指揮官である監察官率いる「監察係員」が行います
以下は記者会見の様子です。参考書籍「警視庁監察係」の内容を一部抜粋し加筆修正して引用しています。
「では当庁警察官による非違事案について発表します」
小学館/今井良「警視庁監察係」より一部抜粋し加筆修正して引用、URL
警視庁本部11階にある警務部人事一課の会議室。広くはないその空間では、人事一課長・首席監察官(警視正)が正面に、壁沿いには人事一課監察係の監察官(警視)たちがずらりと並んでいた。
報道各社のデスクキャップクラスの記者たちを前にした人事一課長が、ペーパーを手に非違事案を発表する。
「○○警察署に所属する男性警部補は、かねてから交友関係にあった暴力団関係者に捜査資料を提供し、見返りに現金およそ○○万円を受け取ったものである」
記者からすぐに質問が飛ぶ。
「発覚の端緒は?」
「当庁へ匿名での通報があり、監察係が調査を実施し疎明に至りました」
「認否はいかがですか?」
「本人は深く反省しているようです」
人事一課長は余計な事を口にせず、簡潔に要点だけを答えていく。
警視庁本部9階にある会見室に警務部参事官が入室した。手には付箋がびっしりと貼られたファイル2冊を抱えている。
小学館/今井良「警視庁監察係」より一部抜粋し加筆修正して引用、URL、2023年9月20日閲覧
そして記者会見が始まった。
「今日までに○○(所属)の○○(階級)の○○を、地方公務員法違反容疑で通常逮捕しました。○○○○(氏名+階級)が行った行為は警視庁の現職警察官として言語道断であります。一連の事件で都民の皆様の信頼を著しく損ねたことについて、心からお詫び申し上げます」
20秒ほど頭を下げている参事官に向けて、一斉にフラッシュが浴びせられる。
質疑応答が始まり、集まった報道陣の質問に対しては、
「今後の捜査で明らかにしていきたい」
と慎重な言い回しを繰り返す場面もあったものの、不祥事の細部の一部を公表しつつ、
「大変不見識だ」
そう語気を強めて不快感を表わす場面もあった。
人事係
警部以上の警察官や一般職員の任用・配置・退職を取り扱っています。
天下り
警察にも天下りがあります。警察の所管や関係の深い先への再就職は避難を浴びることが多いため「バーター」というやり方があるそうです。それは所管や関係の深い天下りポストを民間企業OBに渡し、その民間企業の子会社・関連企業のポストを天下りする相手に渡すというものです。
- 主な天下り先
- 全日本交通安全協会
- 免許を更新しに行った時に500円ぐらいの会費で任意加入を求めてくる方たちです
- 職員の約半数が警察OBだそうです
- 年間支出の約70%が人件費、収入は会員会費と警視庁/道府県警察からの委託料で賄っているそうです
- 運転免許更新時の講習を随意入札で独占的に受注していると言われています
- 大手警備会社
- 警察庁の局長OB、警察本部の本部長OBが会長や顧問として就任しています
- 日本道路交通情報センター
- 警視総監OBが理事長として就任しています
- 保安通信協会
- 警察庁長官OBが会長に就任、職員の1/3を警察OBが務めているそうです
- パチンコ台の型式試験を行う機関であり、パチンコの監督省庁が警察庁であることと警察に生殺与奪を握られていることからOBを多く受け入れ、警察への口利きなどの利便を図らせているという話です
- パチンコメーカー
- 警視総監OBを常勤顧問として受け入れているそうです
- 公営競技関連団体
- 暴力団組織に再就職しているケースもあるそうです
- 全日本交通安全協会
監察係
監察とは監督・査察することであり、警察においては警察官に対する監督と査察を行う「警察の警察」と呼ばれ恐れられているセクションです。
警察手帳の取り扱いや職員の規律・懲戒、分限、営利企業への従事制限、管轄区外の居住、武器の使用、受傷事故防止等を主な業務としています。
監察係の構成は以下となります。
- 首席監察官(警視正クラス)
- 理事官(2名、警視)
- 監察官(4名、警視クラス)
- 監察係長(警部クラス)
- 主査(一般監察、警部補クラス)
- 主査(3名、懲戒等)
- 主査(3名、各種対策)
- 監察(4名、懲戒)
- 監察(分限休職等)
- 監察(一般監察)
- 監察(管轄外居住、職員交通事故)
- ファミリーホットライン
それぞれの役割は以下となります。
- 首席監察官
- 現場のトップであり階級は警視正
- 警視庁入庁30年超のノンキャリアのエリートが就くポスト
- 人事第一課においては理事官クラスであるため、他の部門(例えば刑事部)であれば警視クラスが務めるはずですが、監察は業務の特殊性から警視正が務めることになっています(階級で舐められないため?)
- 理事官
- 首席監察官の補佐
- 監察官
- 素行不良の警察官を懲戒する役職で、調査にあたる警察職員は「監察官」と呼ばれています
- 警察官を相手に徹底した行動確認等を行うため警視庁公安部を経験した人材が多いそうです
- 公安に配属される警察官は昇任試験の成績上位者
- 監察係はコンプライアンス担当でもあり、所属する監察官はエリート総務部員となります
- 1年間の任期制で副署長経験者が充てられるという話もあります
- 監察係長
- 庁内の全部門の筆頭係長
- 主査
- 実際に業務にあたる監察係員のリーダー格
- 監察
- 現場の最前線で監察業務にあたる
- ファミリーホットライン
- 警視庁警察官の家族からの通報を専門に受け付ける、外線からも架電可能な電話番号
- 家庭内の相談が持ち込まれるケースが多いそうです
表彰係
警察内部の警察表彰と叙位・叙勲、国家褒章、大臣・都知事の行う表彰について携わっています。
警察表彰については全ての捜査本部が警視総監賞等の表彰の上申をしてくるため、管内の全ての事件の概要と捜査体制が把握できる、人事一課の中でも重要なセクションになっています。
警察表彰
捜査部門の所属長(主に捜査一課長等の課長)が表彰係に対して以下の書類を添付して表彰の上申を行います。
- 調査報告書
- 逮捕手続書及び功労者の報告書又は関係者の供述書の写し
- 犯罪検挙(被疑者・余罪)一覧表その他功績事実を証明する資料
- 表彰を受けるべき者の履歴書、身上及び勤務成績に関する書類の写し
上申された事件は警視庁警務部長を委員長とした課長クラスの12人の委員で構成される「審査委員会」で審議され、過半数の可決で表彰が決定されます。表彰については人事情報管理システムに登録され、警察官としての在籍中にずっとついて回る記録となります。
表彰の種類とその内容については以下の通りです。
- 警察庁長官賞
- 現金1万円・記念品などがもらえます
- 管区警察局長賞
- 警察庁長官賞とほぼ同じですが、永年勤続者への表彰はないものです
- 個人に贈られることは稀だそうです3
- 警視総監賞/警察本部長賞
- 重要事件の解決において特に功労があった方に贈られます(捜査本部が開かれた事件の解決において、その功労が高かった上位数名に上申されるものです)
- 捜査本部の事件担当係長はこの警視総監賞/警察本部長賞を人事第一課の表彰担当と交渉していかに獲得するかも重要なポイントだそうです、それ以下の功労があった方は部長賞が上申されるそうです
- DJポリスも受賞したので、全国的な話題になる騒動を未然に防いだという功労でも貰えるようです4
- 一つの事件でだいたい1~2人で現金1,000円などがもらえます
- 年に2回受賞すると特別昇給の対象となる警視庁/道府県警察もあるという話です
- 警察本部長賞をもらうと、それ以下の賞はだいたいもらえるそうです
- 本部長が行えるのは以下の表彰です
- 警察功績章
- 賞詞
- 賞詞1級
- 人間国宝の刀鍛冶が作成した短刀一振りが賞状とともに授与されます
- 10年に1人が授与されるかどうかの特別な賞です
- 賞詞1級
- 賞誉
- 賞誉1級
- オリンピックに出場して金メダルを獲得した警察官
- 捜査員は特殊事件の解決時に最も功労があった方
- 賞誉2級
- 逮捕者の多い事件や社会的に大きな事件の解決時に最も功労があった方
- 賞誉3級
- 事件捜査に功労があった方
- しかし従事した捜査員のうち1/4程度しか授与されないそうです
- 賞誉1級
- 賞状
- 即賞
- 感謝状
- 一般人が受けられるのはこの表彰です
- 個人は3,000円相当、団体は5,000円相当の物品がもらえるそうです
- 本部長が行えるのは以下の表彰です
- 重要事件の解決において特に功労があった方に贈られます(捜査本部が開かれた事件の解決において、その功労が高かった上位数名に上申されるものです)
- 部長賞
- 刑事部長賞、生活安全部長賞など
- 重要事件解決の功労者1~2人
- 記念品(メダルなど)がもらえます
- 課長賞
- 捜査一課長賞、捜査三課長賞、公安一課長賞等
- 上申は不要で、課長の判断で贈られます
- 記念品(メダルなど)がもらえます
- 署長賞
- 署長のポケットマネーから500円、300円といった金額が封筒に入れられて渡されます
- 上申は不要で、課長の判断で贈られます
- 表彰のみの場合もあります
叙位・叙勲
元警察職員が授与される叙勲は以下の2つでいずれも年2回、春は4/29付、秋は11/3付で授与されます。
- 春秋叙勲(瑞宝章)
- 国家または公共に対し功労のある者を対象として、公務等に長年にわたり従事して成績を挙げた人(自己を犠牲にして社会に貢献した人)
- 1回に約4,000名が受章
- 警察関係者は約100名、警視庁関係者は6名程度
- 長妻元厚労相の父親(元世田谷警察署長、警視正)も受賞5
- 危険業務従事者叙勲
- 警察官や自衛官、消防官、海上保安官等の危険性の高い業務に精励した人
- 1回に約3,600名が受章
- 警察関係者は約1,800名、警視庁関係者は400名程度
制度調査係
警視庁内の組織上の問題点について全ての部署の職員から寄せられた様々な意見を洗い出し、解決に向けて調整するセクションです。
- 担当の管理官2名が統括
- 警部クラスの主査が3名
- 警部補と巡査部長の係員
ホットラインが常設されています。それぞれ警察電話からかけることができ、一般の電話からも可能なFAXの電話番号も周知されています。
- 職場改善ホットライン
- 警視庁内部では「職員相談110番」と呼ばれている、主にハラスメント事案について受け付けているホットラインです
- 駆け込み寺とも呼ばれているそうです
- ふれあいホットライン
- 主にセクハラ相談に対応するためのホットラインです