地域の防犯を担当する部署です。110番の受付と初期対応を式する通信司令部があります。
警視庁での地域部の組織構成は以下となります。
- 地域総務課
- 地域指導課
- 自動車警ら隊
- 鉄道警察隊
- 航空隊
- 通信指令本部
- 指令計画課
- 第一指令課
- 第二指令課
- 第三指令課
- 本部指令センター
- 多摩指令センター
自動車警ら隊
交番のお巡りさんと同じように制服を着てパトカーで警らしながら不審人物の職務質問をするセクションです。しかし「普通のお巡りさん」と違って、自動車警ら隊は機動警察のスペシャリストとしてプロの不審人物のハンティングを行う「プロの事案処理師」として高く評価されています。
職質検挙(職務質問と検挙)のエキスパートであり、警察24時等のTV番組で取材を受けている「職質のプロ」はだいたいこのセクションで勤務している警察官になります。
- 精鋭の中でもごく限られた者にしかなれないエリート集団という扱い
- 高い評価を受けている分、実績を挙げなければならないという強いプレッシャーに晒されてもいます
- 通信指令本部から無線司令が入れば現場に臨場したり交通違反をした自動車を追跡したりします
- その後は四現業の捜査員等に引き継ぎます
- 勤務は交番と同じように3交代制となります
- 警視庁は4交代
- 3日に1回の24時間勤務
- 複数のパトカーによって編成されていますが、全てを機動警らさせるわけではなく、機動警らに回すパトカーと突発用に待機するパトカーで分けて運用しています
- パトカーは「県名+n号」で呼ばれている
- 千葉県警察なら「千葉1号」「千葉2号」
- 所轄署は「警察署名+n号」
- 船橋警察署なら「船橋1号」「船橋2号」
鉄道警察隊
国鉄(日本国有鉄道)が存在していた時代に鉄道と関連施設内の治安維持のために置かれていた鉄道公安職員が前身で、1987年の国鉄民営化に伴い警察内に設置されました。
痴漢やスリ・置き引き等の鉄道や駅構内で発生する犯罪の予防や捜査を担当しています。スリと痴漢専門の捜査官がいます。
痴漢の捜査では、あらかじめ被害者からヒアリングした痴漢発生時の時間帯・路線・区間・車両・車両内の位置・風貌という情報を元に私服で捜査し、該当する人物の発見と尾行、痴漢の現行犯逮捕をしています。
通信指令本部(110番受付)
現在の通信指令本部
警視庁ホームページ「110番の今昔」より引用、URL、2023年9月10日閲覧
都内の110番通報を受理し、無線で初動活動の指揮を採る司令塔となる部署です。多摩地域からの110番通報は通信指令本部の多摩分室に入電します。
- 通信指令本部は都道府県警察ごとに呼称が変わります
- 警視庁では通信司令本部
- 千葉県警察では通信指令室
- 一般人からの110番とは別に警察官が警察電話から110番を入れるケースもあり、これを警察110番と呼びます
警察本部の地域部と各警察署の地域課が警らしているパトカーの位置情報をロケーションシステムによって把握しており、事件発生現場に近いパトカーに対して指令を送ります。パトカー以外にも、警察用航空機(ヘリ)や警察用船舶も通信指令が運用している。
- ヘリ
- 緊急配備がかかっている事案の時に空からの応援としてヘリを飛ばします
- 空からの交通取り締りもしています
- 災害発生時の救難救助、情報収集にも使用されています
- 全国の都道府県警察で約80機が配備されています
- 警視庁にはそのうち14機が配備されていて、東京ヘリポート(江東区新木場)と立川飛行場(立川市)の2か所に基地があります
- パイロットは資格と経験のある一般職員(元自衛官など)です
- 船
- 水難救助、水上パトロール、水上レジャー対策、遺体回収等の任務に当たります
- 水上からの重要施設警備も行います
- 災害発生時の捜索・救助・輸送活動
- 離島に警察官を派遣する時にも使用されます
- 全国の都道府県警察で約160隻配備されています
- 8m・5t~23m・38tまで様々
- 平成26年度で19~38tが2隻、4.9~10tが20隻1
- 19~38t:密航、密入国、密漁事犯等の海上犯罪対策、災害対策、重要防護施設の警備・警戒、離島連絡等の水上警察活動
- 4.9~10t:水上パトロール、水上レジャー対策、沿岸警備・警戒活動、密漁、水難者救助、遺体収容・漂流物回収等の水上警察活動全般
- 沿岸部や近場のみを担当し、近海~遠海は海上保安庁が担当します
- 沿岸区域(約9km)、沿岸区域(約37km)まで
通信司令官
通信指令本部の全体を統括するのは通信司令官と呼ばれている捜査経験のある幹部です。(階級は警視2)
夜間の当直もあり、夜は警視総監に代わって東京都全体の指揮を採るという意味から「夜の警視総監」とも呼ばれているそうで、交通事故から殺人事件、ゲリラのような警備や公安案件のものまで含めた全ての事案についてその初動の指揮を採ります。
- 視野の広い幹部でないと無理なポジション
指令台係官
110番通報の受理を行います。
無線担当係官
110番通報の内容を確認して関係部署に無線で連絡します。
設備
通信指令本部は警視庁本部4~5階の吹き抜けフロアにあり、PCと無線機が取り付けられたデスクが並ぶ「指令台」に座った制服警察官が対応しています。
指令台の正面には大型表示装置が設置されていて、東京都全体の地図をベースにパトカーのロケーションシステムやヘリの映像、一般のTV映像を集約して一括した形で表示するようになっています。
- 指令台は方面ごとに分けられているそうです
(詳細は不明ですが)指令台PCで扱える情報・システムは以下となります。
- 地図情報表示システム
- カーロケーションシステム(パトカーの現在位置を表示)
- 支援情報システム(現場付近の主な目標物、高速道路網、鉄道路線網、地下街立体図などを表示)
指令台PCとは別にNシステムの接続端末も設置されています。(主な目的は盗難車の検知)
- 盗まれた車のナンバーを通信指令本部でNシステムに入力しておき、ヒットしたらその付近のパトカーなどに「至急、至急、盗難車両が○○を通過中」と無線指令します
受理
110番通報が入電すると指令台の手元のランプが「プップー」(または「プププ」)と鳴り出し、赤く点滅します。その電話がどこからかけられているのか逆探知され、通報者が110番をかけている現場を所管する方面が表示されます。
その方面担当の指令台係官が受理のスイッチを押すとその方面担当の指令台のランプが鳴り、通報場所周辺の地図が指令台のPCに表示されます。
「はい、警視庁です。事件ですか? 事故ですか? 見たままを話してください」という言葉から受理が始まります。
- 指令台係官には冷静沈着な警察官が配置されます
- 受理についての教養も随時受けるようです
指令台係官が通報者から情報を聞き出している隣で、そのやりとりを聞いている無線担当係官が関係部署にその情報を流していきます。
- 例えば浅草から「人が血を流して倒れている」という110番通報を受理した場合
- 110番と無線を繋ぐボタンを押して「浅草署管内、殺人容疑事件発生」と伝える
- 以下の警察署・部署にその情報を流していきます
- 現場の浅草警察署、近隣所轄の上野警察署、蔵前警察署、下谷警察署
- 警視庁刑事部捜査一課、鑑識課、機動捜査隊
オペレーターの脇にライトの棒が立っていて色で状態を示しています。受理できず滞留してしまった110番通報は機器の上のランプ等で視覚的に分かるようになっているようです。
- 一番上の赤色は重要事件が起きた状態
- 真ん中のオレンジ色は110番通報の受理中
- 一番下の緑色は現在通報がない状態
110番の受理件数は以下の通りです。
- 年間約901万件(平成29年)、年間約909万件(平成28年)
- 1日あたり約3600件
- 上記件数には悪戯や無言電話、事案ではない内容も含まれています
- 痴話喧嘩の仲裁の依頼
- 動かない家電製品のクレーム
- 害虫の駆除
- 偽の通報を何百回と繰り返した男が偽計業務妨害で逮捕されたケースもあります
指令
指令台係官によって110番が受理されると指令担当警察官がその事案(事件や事故)について無線司令を流します。その事案が発生した地域を所管とする警察署や、状況によってはその警察署と隣接した警察署または県下へ一斉に流すこともあるそうです。
- 警察署の警察官たちは自分の所属する警察署が呼ばれないことを祈っているそうです
- ピーピー「こちら千葉から……船橋」警察官「げっ」(千葉県警・通信指令室から船橋警察署へ)
- 事案の概要と必要な措置を無線で簡潔明瞭に流すにはかなりの技術が必要です
- その言い回しがあまりに名調子だと音楽として聞いてしまいメモを取り忘れることもあるとか
無線指令を受けた警察署や地域部のパトカー、機動捜査隊はすぐに現場へと臨場し、現着した旨の第1報を通信指令本部に報告、必要な初動活動を実施して、必要に応じて第2報・第3報を報告しさらに指令を受けます。
110番通報を受けて指令を流してから誰かが現着(現場到着)するまでの時間を「レスポンス・タイム」と呼んでいます。
- レスポンスタイムの全国平均で7分5秒だそうです
- この時間を短くすることが大切とされています
緊急配備
通信指令本部が指示する初動活動の中でも典型的なものです。現在発生したばかりの事件の被疑者が逃走したことが判明し、現場近くの警察署や警視庁関係部署がその被疑者確保のために一斉に動き出すというものです。
事件や場所によっては警視庁だけではなく、隣接する神奈川県警察・埼玉県警察・千葉県警察等にも協力を要請する「広域配備」も行われます。
- 広域配備になるケースとしては、被疑者が車などで県境に向かうことが予測される場合等です
- 通信指令本部にはこれら各県警とのホットラインが引かれていて、ボタン一つで各県警の通信指令本部/室と繋がるようになっています
- 事件発生地を管轄する警察署の幹部にとっては、自分の管内で被疑者や犯罪の端緒を見逃した責任問題になるというプレッシャーにも繋がります。
以下は緊急配備の例となる。
- 警視庁丸の内警察署管内で強盗殺人事件が発生し、被疑者が車で逃走したという通報が110番に入電した場合
- 丸の内警察署を所管する第1方面、隣接する第2方面・第6方面の各警察署に「緊急配備発令! 丸の内管内で強盗殺人容疑事件発生、マル被は乗用車にて逃走中。ナンバーはXX X XXXX!」
- 指令を受けた第1・2・6方面の全警察官は、制服・私服の別を問わず全員が街に出て、通信指令本部が流してくる情報に基づいて犯人の検索(捜索)を行います
- 交番も肩の無線機から緊急配備の指令を受けて「おい、キンパイだぞ!」と、自転車やバイクに乗って持ち場を重点警らします
- 持凶器(じきょうき)傷害事件が発生し、被疑者が逃亡したという110番が入電したケース
- 「至急、至急、川崎PS管内○○において199未遂事件発生、マルイチ逃走中につき緊急配備を発令する! マルイチの人着、年齢35歳ぐらい、身長175センチメートルくらい、頭髪XX、容姿XX……」
- ○○:場所
- 199:刑法199条の「殺人」を意味する隠語です
- マルイチ:被疑者を意味する隠語です
- 「至急、至急、川崎PS管内○○において199未遂事件発生、マルイチ逃走中につき緊急配備を発令する! マルイチの人着、年齢35歳ぐらい、身長175センチメートルくらい、頭髪XX、容姿XX……」
- 私が描いた小説での一例です。
- 「警視庁より各局。荒川中央管内、町屋一丁目にて未成年略取容疑事件が発生した。緊急配備を発令する。マル被は白いワゴン車、ナンバーは不明。男二、三名。ガイシャは高校生ぐらいの少女、胸ぐらいまでの黒髪、ジーンズにグレーのパーカー姿。繰り返す――」無線室のランプが赤く光り、スピーカーからそんな通信指令が聞こえてきた。署内が慌ただしく動き出す。先ほどまでは見えなかった刑事課の面々が集まってきて、どこからともなくやってきた捜査一係の係長がテキパキと指示を繰り出していく。「管内のヤマだ、逃がすなよ!」その声で、全員が一斉に動き出した。