警察官も一般人と同じく法律違反を犯した場合は罰せられます。傷害事件や詐欺、ストーキング等の違法行為はもちろんですが、一般人では懲戒処分までされないような不倫等の行為についても、公務員として市民の模範となるべく定められた服務規程に反するため不祥事と見なされ懲戒処分を受けます。
2016年中に懲戒処分を受けた警察官は266名でした。
- 内訳
- 逮捕者は81名
- 異性関係が94名
- 盗撮が21名
- 強制猥褻が20名
- セクハラ17名
- 窃盗・詐欺・横領が61名
- (飲酒運転含む)交通事故・違反が36名
- (パワハラ含む)規律違反等が17名
不祥事には大きく2つ、警察官の不安定な心理状態に起因するパターンと、警察官のモラル崩壊に起因するパターンが見受けられるそうです。
- 不祥事の訴訟で警察が争わずに若いするケース
- 架空の参考人に日当を払ったことにしてそれを裏金に使ったケースの不祥事では、県警側は争わずに和解となりました
- その理由として「適法に支出したことを立証するためには、捜査や参考人の秘密を明かさねばならず、公共の安全に重大な影響が出るから」というものでした
以下は参考書籍等で記載のあった不祥事事件の概要です。
目次
1991年・警視庁巡査部長(贈収賄)
赤坂警察署の生活安全課の巡査部長ら3人が地元のカジノ店に捜査情報提供の見返りに400万円の賄賂を求めた事件でした。
1999年・神奈川県警察警部補(覚醒剤取締法違反)
現職の警部補が覚醒剤を使用し、それをキャリアである県警本部長や非違事案を取り締まるはずの監察官室長までもが隠蔽に加担した大不祥事です。1
証拠隠滅と犯人隠避という刑事罰が下され、さらに規律違反行為の懲戒処分も下されました。
- 処分者/処分内容
- 県警本部長(キャリア)
- 懲役1年6か月・執行猶予3年、懲戒処分できず
- 警務部長(キャリア)
- 懲役1年・執行猶予3年、警察庁キャリア初の懲戒免職
- 監察官室長(ノンキャリア)
- 懲役1年・執行猶予3年、懲戒処分できず
- 監察官(ノンキャリア)
- 懲役1年・執行猶予3年、懲戒免職
- 生活安全部長(ノンキャリア)
- 懲役1年・執行猶予3年
- 薬物対策課長(ノンキャリア)
- 停職3か月、依願退職
- 外事課長(キャリア)
- 停職3か月、依願退職
- 県警本部長(キャリア)
2000年・新潟県警察本部長・関東管区警察局長(信用失墜)
1990年に新潟市三条市在住の9歳女児が新潟市柏崎市の男性によって誘拐され、9年の長期間にわたって監禁されていた事件がありました。少女を監禁しつつ家族に対するDVがひどくなったことから、母親が相談した精神病院・保健所・市役所が加害者男性を強制入院させるためその自宅を訪れたところ、部屋から少女を発見して保護に至りました。
加害者男性の強制入院措置時や少女発見時の対応に虚偽の報告や、トップの対応が甘かったことから信用失墜を招いたとされています。
- 強制入院措置の執行時に男性が暴れたことから当局側は警察の出動を要請したものの、警察側が出動を断ったことを「当局側が断った」等と虚偽の報告しました
- 少女が行方不明になった当時、所轄の柏崎署が別の少女に対する強制猥褻未遂事件の前科を持つ加害者男性の情報を新潟県警察本部に送っていませんでした
- これにより初動捜査の対象として加害者男性が漏れてしまい、9年にわたる長期間の監禁となってしまったと言われています
- 少女発見時、関東管区警察局長の視察に対応していた新潟県警察本部長が刑事部長から少女発見の連絡があったもののホテルでの宴席を優先させ、さらに生活安全部長・総務課長等も参加させての麻雀に興じ、翌日も関東管区警察局長を白鳥飛来の名所観光をして昼食を取り、その後も県警本部ではなく公舎に戻っていました
- 事件発生の4年前に加害者男性の母親が柏崎署に相談に来た際の相談簿も紛失
- 巡回連絡で加害者男性宅を3回ほど訪れていたにもかかわらず不信情報を得られませんでした
新潟県警察本部長は上記のような虚偽報告・不手際等を謝罪し国家公安委員会から減給処分を受け、その後に依願退職しました。関東管区警察局長は処分されなかったものの同様に依願退職しました。なお、両名には3,000万円以上の退職金が支払われるはずでしたが、世論の反発が強かったことから両名とも受取りを辞退しました。
さらには「関東管区警察局の監督責任がある」として当時の警察庁長官も減給処分に、虚偽報告や信用失墜行為を行ったとして新潟県警察の刑事部長・警務部長・生活安全部長、警視4名、警部1名、警部補1名に減給・本部長訓戒・注意の処分が下されました。
2010年・警視庁刑事部捜査一課長(不倫)
警視庁元職員の女性と交際しトラブルになっていたという「私的な不適切行為」があったとして、捜査一課長は国家公安委員会の内規上の処分を受け警視庁警務部付に人事異動となりました。事実上の更迭です。
以下は経緯です。
- 経緯
- 内閣府、内閣情報調査室の国内部門に所属する担当者(警察庁からの出向者)から旧知の監察官に、近日発売の週刊誌に警視庁のスキャンダルを報じる記事が掲載されると忠告がありました
- 監察係員が記事のゲラを入手し、それは「○○さんとの「公舎不倫」6年」というタイトルとともに捜査一課長がかつての部下だった警視庁の元職員女性と6年に及ぶ不倫関係にあり、トラブルになっているというものでした
- その女性はこの週刊誌に独占告白という形で捜査一課長との関係を洗いざらいぶちまけていました
- 警務部参事官を兼ねるキャリアの人事一課長からのGOサインを受けた監察係の1個班が目黒区内にある捜査一課長官舎に向かい、帰宅する捜査一課長の前に立ちはだかって任意同行を求めました(官舎は普通の一軒家)
- 警視庁本部2階の取調室に同行され監察係の調べに対して捜査一課長は元女性職員との不倫関係を認めました
- 相手の元女性職員は庁内でも複数の警視庁警察官と関係を持っているという噂を立てられていた有名な存在だったそうです
- 処分は警察庁懲戒処分の指針に基づいて決定されました
- 捜査一課長の場合は「その他規律に違反するもの」「公務の信用を失墜するような不相応な借財、不適切な異性交際等の不健全な生活態度をとること」に該当し、懲戒処分の種類としては「戒告」となっています
- しかし警視庁の看板ポストである捜査一課長の懲戒処分は何としても避けたかったものの、立場上、無罪放免ともいかないため何らかのペナルティを与えることになりました
結果的に捜査一課長は警務部預かりとなり、そこから警察庁交通局の附置期間である自動車安全運転センター安全運転中央研修所の研修部長への左遷となって、その後2012年に警視正のまま辞職しある財団法人に勤務したそうです。
2013年・警視庁組織犯罪対策四課巡査部長(守秘義務違反)
警視庁は警視庁組織犯罪対策四課の巡査部長を「東京都内等で指定暴力団の30代の組員に捜査情報が記載された情報を渡し、職務上知り得た秘密を漏らした疑いがあった」として地方公務員法違反容疑(守秘義務違反)で逮捕し、巡査部長は容疑を認めました。
- 経緯
- 2013年、ある指定暴力団幹部組員の自宅を警視庁組織犯罪対策部組織対策四課・五課の捜査員10名が覚醒剤取締法違反容疑で家宅捜索に入りました
- 捜索の結果、警視庁の内部資料が発見されました
- 捜査対象者の顔写真や氏名、相関関係がまとめられたチャート、捜査体制表があったことから捜査資料だと判明したそうです
- 組織犯罪対策四課幹部らは対応を協議して人事一課監察係に報告しました
- 監察官を筆頭とする1個班5名が調査担当となり漏洩元の調査を開始
- 覚醒剤取締法違反容疑の捜査では組織対策四課から特命班の捜査員が選抜され極秘に組員の取調べが行われて、四課で単独捜査をしていた巡査部長が浮かび上がりました
- 組織犯罪対策四課は暴力団に関する捜査を担当し、その巡査部長は組織情報を収集する情報担当だったそうです
- その巡査部長は暴力団員の扱いに長けていて押し引きのバランスも優れている、質の良い情報を取ってくることのできる刑事でした
- 単独捜査は独善捜査とも呼ばれ1対1となった場合に相手に取り込まれてしまうケースもあって、それに歯止めをかける役割の相勤者がいない場合はやらない方が良いとされている行為です
- 監察係が巡査部長を24時間体制の視察下に置いて、基礎調査、行動確認、秘撮、秘聴等の監視活動が行われました
- 3か月の監視で巡査部長と暴力団員が情報交換をするという癒着があることを確認しました
- 監察係は豊島区内にある警視庁の施設に巡査部長を任意同行し事情聴取、「直接コンタクトできる関係を継続し、認められたかった」と巡査部長は容疑を認めました
- 容疑は認めたものの暴力団の組織情報収集に必要な行為だったと主張
- 相手からの金銭授受はなかったことが判明
- しかし地方公務員法違反容疑(守秘義務違反)で逮捕となりました
- 2013年、ある指定暴力団幹部組員の自宅を警視庁組織犯罪対策部組織対策四課・五課の捜査員10名が覚醒剤取締法違反容疑で家宅捜索に入りました
2013年・警視庁綾瀬警察署巡査長(職務放棄)
綾瀬警察署地域課の巡査長が交番勤務中に「騒音の苦情で現場に向かう」と同僚に告げて自転車で交番を出た後に行方不明となりました。翌日に東京駅の男子トイレで制服の入ったバッグが発見され、東北新幹線に乗った姿が防犯カメラで確認されて、宇都宮市内のホテルに戻ってきたところを確保されました。業務外で拳銃を所持した銃刀法違反(加重所持)容疑で逮捕されました。
経緯
- この巡査長は月間の職務質問ノルマが低調だったため、相勤の巡査部長に自らパトロールを志願したものの「お前は検挙できないから1人で行かせない、信用できない」と言われたものの特に反論もなく勤務に戻り、その後に騒音苦情の対応をすると告げて出ていきました
- この不穏な行動を受けて相勤の巡査部長が本署警務課に報告、警務課長は警視庁警務部人事一課監察係に連絡
- 拳銃を携行した状態での逃走と判断した監察官は、刑事部捜査一課第一強行犯捜査・強行犯捜査一係に連絡(強行犯捜査一係は庶務として課内の全ての事件を把握しているため)
- 発覚から1時間で総勢80名の追跡チームが組まれる
- 警務部人事一課監察係
- 刑事部刑事総務課刑事特別捜査係
- 刑事部長の特命捜査を扱う
- 刑事部第一機動捜査隊、第二機動捜査隊、第三機動捜査隊
- 人事一課監察係から預かった巡査長の経歴データを捜査班が捜査支援分析センターに持ち込み、巡査長の顔写真データを顔画像照合システムにかけました
- 照合対象とした防犯カメラで巡査長の動きが判明
- 東京有楽町の街頭防犯カメラに巡査長が映っており、周辺の防犯カメラからとあるビル内のカラオケ店に入店、翌日5時に退店すると東京駅のコインロッカーへ向かって3つのバッグを取り出して東北新幹線に乗り込みました
- 宇都宮駅で下車したことも判明し宇都宮市内の検索が始まります
- 刑事総務課刑事特別捜査係の捜査員が巡査長の宿泊しているホテルを突き止めました
- レジ袋を手に部屋へ戻ってきた巡査長の身柄を確保、拳銃とナイフ等を押収しました
取調べ
- 警務部人事一課監察係の監察官が取調べを行いました
- 巡査長は失踪したきっかけが相勤の巡査部長から告げられた言葉だったと明かしました
- 警察学校での成績は同期の中でも上位で事件の4か月前には巡査部長試験に合格していたものの、本人のメンタルの弱さが事件を引き起こしたと考えられました
- 生きがいにしていた柔道でも練習中に怪我をしてしまい周りの猛者たちの中では霞んでいて、同僚から「柔道で実績を挙げていない、巡査部長になったとしてもお前はダメだ」とも言われていたそうです
- 理想と現実の狭間に陥ってしまっていました
- 刑事を目指してきたため警察官を辞める判断ができず、どうすればと考えた時に「逃げ道を作っておけば拠り所になる」と失踪や現実逃避を考えるようになっていました
- それを裏付けるのが以下の行動でした
- 自転車を放置し受令無線機の線をナイフで切り電池パックも外してPフォンも電源を切って電池パックを外していました
- 徒歩でJR綾瀬駅高架下に向かいジャージに着替えて電車とタクシーを乗り継ぎ、東京駅のコインロッカーに用意していた3つのバッグを回収
- 着替え、サバイバルナイフ、のこぎり、包丁、現金260万円の入ったバッグ
- そのうちの1つに拳銃をタオルにくるんで隠しました
- それを裏付けるのが以下の行動でした
- 「思いつきで行動した、深く考えていなかった」との弁
- 東北新幹線に乗車したものの寒すぎるのは嫌だと考え、宇都宮なら気候的にちょうどいいと考えて下車したそうです
- 駅近くのビジネスホテルにチェックインし近くのファミリーレストランで食事を終えると、大型書店で漫画本を購入しコンビニでスナック菓子等を買い込んでホテルに戻りました
- 盗まれないよう拳銃は携行していたそうです
処分
- 懲戒免職処分
- 失踪行為では免職・停職・減給は免れない
公判・判決
- 銃刀法違反で起訴され、東京地方裁判所で懲役3年・執行猶予5年の実刑判決が言い渡されました
2014年・蒲田警察署巡査長(自殺)
2014年2月、蒲田警察署内のトイレで地域課の巡査長(当時44歳)が貸与された拳銃により自分の頭を撃って自殺しました。上司である警部補(52)から受けていたパワハラが原因だったとしてその警部補を減給10/100の懲戒処分になりました。
巡査長の遺書には「こんなに仕事が嫌になったのは初めてだ」とあり、警部補を名指しして「許せない」とも書かれていました。この警部補は2012年9月から蒲田警察署の地域課に統括係長として着任し、職務質問による検挙が少ないことを理由に自殺した巡査長を含む数人に「身の振り方を考えろ、家族に相談しろ」と退職を強要するような発言を繰り返していました。
監督責任として当時の蒲田警察署の地域課長(54)を訓戒処分、署長(58)ら7名を口頭厳重注意としました。
2016年・滋賀県警察長浜警察署員(セクハラ)
2016年11月、滋賀県の長浜警察署が秋の人事異動に合わせて開いた懇親会で男性署員が女性署員2名に余興としてプロレス技をかけ、さらに別の男性署員がその様子を携帯電話のカメラで撮影していたとして、滋賀県警察はセクハラだと判断し関係者8名の処分を決定しました。うち1人は依願退職しました。
2016年・田園調布警察署警部補(自殺)
2016年2月、警視庁田園調布警察署のトイレで男性警部補が拳銃自殺しました。2015年10月に同署の別の男性警部補が拳銃自殺したのと同じ個室でした。警察官の拳銃自殺の場合、警察署の警務課長から方面本部監察官、警視庁人事一課監察係のラインで速報されます。
捜査
- 原因究明のための捜査が行われました
- 警察署の警務担当、方面本部の監察官、人事一課監察係から1個班4名が到着して自殺した警察官の周辺関係者への事情聴取がそれぞれ場所を変えて一斉に行われました
- 地域課の同僚・先輩・上司に対して、普段の勤務態度や最近の言動、私生活、夫婦関係・家族関係等が聴取されます
- 入庁時の試験記録、警察学校での成績や人事記録も精査されました
- 重要視されるのは人間関係
- 警察署の警務担当、方面本部の監察官、人事一課監察係から1個班4名が到着して自殺した警察官の周辺関係者への事情聴取がそれぞれ場所を変えて一斉に行われました
- 半年間に2名の自殺者が出ていたため地域課を中心に捜査を進めたところ、上司のパワハラが原因と推察されました
- 人事一課内の職員相談110番にタレコミがあってそれを裏付けていました
- 1人目の自殺者が表面化した際に内部の人間から人事一課監察係に内部通報があったと考えられています
- 警視庁本部2階の取調室で自殺した警察官の上司が人事一課監察官の聴取を受けました
- 調べに対しては「部下のためを思っての指導の一環だった」とパワハラを否定
- しかしこの上司のパワハラは有名で、部下を多くの署員がいる中で怒鳴ったり個別に呼び出して長時間の指導もあったりしたそうで、他の署にも噂が知れ渡っていたほどでした
処分
- 田園調布警察署から東京都西部の警察署に左遷されました
- しかし階級も職務も変わらないままの横滑り異動
- その後に依願退職
- 部下を思っての指導という主張が崩れず、それ以上の追及ができなかったため左遷の処分となりました
2017年・警視庁交通部キャリア(不倫)
2017年2月、警察庁キャリアの警視長が警視庁交通部の課長在職中に仕事を通じて知り合ったイベント企業経営者の女性と不倫関係を持ち、警視庁交通部のイベントやグッズ制作の業務の請け負いについて便宜を図った疑いが持たれ、警察庁はその警視長を長官官房付に異動させました。